「大人になったら何になりたい?」
子供の頃、僕は子供にそんな質問をする大人を軽蔑していた。
もっとも、僕はかなり幼い頃から
「自分はピアニストという職業に就くのだ」と信じきっていたから、
その質問の答えに困ったことはないのだけど。
「僕は絶対にピアニストになるんだ!」
でも、今考えると、
どこからそんな自信が湧いていたのかとても不思議である。
人生を逆算して考えてみると、
ピアニストになるってことほど綱渡り的な事ってそうはないと思うんだけどね。
僕は多分、何の自信も根拠もないまま
「ならなきゃいけない」と自分に言い聞かせてたのだと思う。
周囲の期待もあったし、学校もろくに通ってなかったから、
"それしかない"と子供ながらに思い詰めてたんだと思う。
「僕は絶対にピアニストに"ならなきゃいけない"んだ...」
鹿児島空港から1時間も車を走らせると、熊本県人吉市に着く。
熊本県南部に位置するこの市は、険しい山々に囲まれた盆地であり、
古くから天皇が身を隠すのに使った程の"秘境"である。
「いやね、わたしも初めは『米なんて』と思っていたんです。
だけどね、数年するともう『米こそが焼酎』と思うようになる。
それくらい米焼酎は奥が深いですよ」
飲んでみると、確かに、芋とはまた違った奥深さがある気がした。
米だから芋よりは臭みもないし甘みがある。
もしかしたら『芋こそが焼酎』と思っている人にとっては物足りないかもしれない。
僕も実は『芋焼酎派』だったのだけど、
米を飲んでみるとやっぱりそこには"伝統"や"地域の愛"みたいなのを感じて感動した。
しかも、日本酒に近い味なのに次の日に残らない。
僕は二日酔いや翌日に残るって感覚あんまり感じた事が無かったから解らなかったのだけど、
それでもこの米焼酎というのはどんなお酒より朝の目覚めが良いと思えたのは、気のせいだったかな。
「みんな何かになる」
僕はそう思っていた。
子供の頃、大人が「大人になったら何になりたい?」と質問する度に思っていた。
みんなそれぞれの人生の主役として生きている。
そして、みんな何かに、なる。
でも、今僕は大人になってみてよく解った。
大人は、それほど真剣に子供にその質問をしていたわけではないのだ。
多分、質問した大人は、
自分の質問によって子供がこんな事考えているなんて思いも及ばないだろう。
大人になるっていう事は、真剣に質問しなくなるって事だ。
ある意味では。
人吉の人々はとても真剣に話をしてくれた。
今の世の中のこと、口蹄疫のこと、高速道路が出来て良かったことから米焼酎のことまで。
全ての話をするときが真剣そのものだった。
僕は、それがとても気持ちよかった。
コンサートを終えての翌朝、米焼酎の甘い香りは、もう僕から綺麗にいなくなっていた。
鳥はさえずり、川は流れ、国宝の「青井阿蘇神社」さえ"生きている"ように感じた。








