僕は飛行機の中にいた。
富士山はとっくに過ぎていたし、
そもそも、世の中にはニセモノとホンモノの違いなんてあるのだろうか。
実は、僕らがホンモノだと思い込んでいるものは全部ニセモノで、
あんな事を思ったのはどこの空だったのだろう?
富士山はとっくに過ぎていたし、
そこから鹿児島空港に着くまでは、
まだけっこうあったような気がする。
とはいえ、飛行機の中での出来事を降りた後で思い出そうとしても、
とはいえ、飛行機の中での出来事を降りた後で思い出そうとしても、
なかなか上手くいかなかった。
でもたぶん、四国とかそれくらいの空だったと思う。
パイ生地のような薄い雲の層の切れ目から覗く景色は、とても不自然だった。
山に囲まれた湖はフライパンの中で固まっている油のように見えたし、
でもたぶん、四国とかそれくらいの空だったと思う。
パイ生地のような薄い雲の層の切れ目から覗く景色は、とても不自然だった。
山に囲まれた湖はフライパンの中で固まっている油のように見えたし、
所狭しとぎゅうぎゅう詰めにされている家や車は
トイザらスなんかで売っているミニチュアの玩具みたいに見えた。
浜の波は静止しているように見えたし、
浜の波は静止しているように見えたし、
手を伸ばしたら触れそうな雲も、
その上にある真っ青な空も、
全てが不自然なものに見えてきた。
気付くと、この飛行機も、乗客も、僕でさえも、
気付くと、この飛行機も、乗客も、僕でさえも、
全てが"不自然な"作り物"のような気がしてきた。
「もし僕がニセモノだったら、僕の思想もニセモノなのだろうか」
「もし僕がニセモノだったら、僕の思想もニセモノなのだろうか」
そもそも、世の中にはニセモノとホンモノの違いなんてあるのだろうか。
実は、僕らがホンモノだと思い込んでいるものは全部ニセモノで、
ニセモノだと思われたモノたちは、
彼らなりに僕らの事をニセモノだと思っているかもしれない。
そうだとしたら、世の中にはホンモノもニセモノも無い事になる。
いや、もしかしたら、自らをホンモノと呼ぶ人にとっては、
そうだとしたら、世の中にはホンモノもニセモノも無い事になる。
いや、もしかしたら、自らをホンモノと呼ぶ人にとっては、
自分と自分に類するものに反するものを「ニセモノ」と敵意を込めて呼ぶかもしれない。
「ニセモノがホンモノの敵として生まれた言葉なのであれば、
「ニセモノがホンモノの敵として生まれた言葉なのであれば、
そんなの消滅した方が健康的だ」
...とニセモノのような世界を見下ろしながら僕は思った。
鹿児島ゆきの飛行機は、
鹿児島ゆきの飛行機は、
相変わらずごうごうと大きなエンジン音を立てて大空を滑空している。
食べ物にも飲み物にも全く手を付けていなかった僕をCAが訝しげな目つきで見つめていた。
僕は気配でそれに気付いていた。
「今この機内に僕と同じ事を考えている人がいるだろうか?」
辺りを見回してみる。
焼酎で酔っぱらって顔を赤らめてCAに絡んでいるおやじがいる。
食事を終えてコーヒーを飲みながら、
僕は気配でそれに気付いていた。
「今この機内に僕と同じ事を考えている人がいるだろうか?」
辺りを見回してみる。
焼酎で酔っぱらって顔を赤らめてCAに絡んでいるおやじがいる。
食事を終えてコーヒーを飲みながら、
ガザガザと不快な音を立てて新聞を読み直しているビジネスマンがいる。
「今のが最後の焼酎だったんですよー。
もしよければ白ワインなんかもありますけれど、お持ち致しましょうか...」
「いやいや、俺は焼酎しか飲まらいんらよぅ。ほんろにもうらいろぉ?(本当にもう無いの)」
CAは「困ったやれやれ」という表情に、なんとか笑顔という仮面をかぶせている。
おいおい、ここは飲み屋じゃないんだぜ、おやじ。
「うあ~~~わわぁ~ふっ」
僕の後ろに座っているおやじは大きな欠伸とともに、恥もなく大きな奇声を洩らした。
後ろの方では赤ちゃんがぎゃあぎゃあと泣きだした。
舌打ちして赤ちゃんの方向を睨み付ける高級スーツの若いビジネスマン。
そのビジネスマンを軽蔑視する僕。
お前にも赤ちゃんの時代があったんだぞ。
そんな僕を訝しげに観るCA...。
機内は"ちぐはぐ"だった。
もう一度窓の外を観てみる。
相変わらず、そこには作り物のような大地が続いていた。
僕は暇さえあると、とりあえず地図を見ている事が多い。
曲を作ったり、ピアノの練習をしたり、
おいおい、ここは飲み屋じゃないんだぜ、おやじ。
「うあ~~~わわぁ~ふっ」
僕の後ろに座っているおやじは大きな欠伸とともに、恥もなく大きな奇声を洩らした。
後ろの方では赤ちゃんがぎゃあぎゃあと泣きだした。
舌打ちして赤ちゃんの方向を睨み付ける高級スーツの若いビジネスマン。
そのビジネスマンを軽蔑視する僕。
お前にも赤ちゃんの時代があったんだぞ。
そんな僕を訝しげに観るCA...。
機内は"ちぐはぐ"だった。
もう一度窓の外を観てみる。
相変わらず、そこには作り物のような大地が続いていた。
僕は暇さえあると、とりあえず地図を見ている事が多い。
曲を作ったり、ピアノの練習をしたり、
原稿を書いたり、メールを返したりする合間に、
数分、数秒でも日本地図を手にとって何となく眺めるのだ。
実際の景色と地図帳の中に広がっている世界は、殆ど変わりがないように思えた。
もしかしたら、僕のいるこの世界も、
実際の景色と地図帳の中に広がっている世界は、殆ど変わりがないように思えた。
もしかしたら、僕のいるこの世界も、
誰かが広げた「地図帳の中の世界」なのかもしれない。
「でも」と僕は思った。
でも、僕の"気持ち"だけはニセモノでも作り物でもない。
子供の頃を懐かしんだり、誰かを大切に思ったり、
「でも」と僕は思った。
でも、僕の"気持ち"だけはニセモノでも作り物でもない。
子供の頃を懐かしんだり、誰かを大切に思ったり、
自分を責めたり、音楽に感動したりする心。
そういう、目に見えないけど体内にしっかり生息しているものだけは手放してはならない。
"気持ち"が自分からいなくなってしまう事を考えて僕はゾッとした。
「自分が自分であるという事は、けっこう繊細な事なんだ」
「生きるという事は、崖の上でワルツを踊っているように、
そういう、目に見えないけど体内にしっかり生息しているものだけは手放してはならない。
"気持ち"が自分からいなくなってしまう事を考えて僕はゾッとした。
「自分が自分であるという事は、けっこう繊細な事なんだ」
「生きるという事は、崖の上でワルツを踊っているように、
危うく、脆く、美しいものなんだ」と僕は思った。
その頃、僕の視線の下にある山々に囲まれた湖では、
その頃、僕の視線の下にある山々に囲まれた湖では、
人知れず束の間の休憩をしながら水浴びを愉しむ孤独な水鳥が飛び立つところだった。
【世界はニセモノなのだろうか。
たとえそうだとしても、僕のこの思想はニセモノではないと思う】








